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 ←兎のおそうじ →【感想】第38話
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短編

夢の通い路 

 ←兎のおそうじ →【感想】第38話
◆警告!陛下がヘタレまくってます。
夕鈴の家出編のちょい足し妄想的なお話です。
ぎりぎり健全のつもり。






妃が後宮から家出して、数日が経っていた。
妃が不在の間も、王は夜になると妃の部屋を訪れた。
周囲もこの奇行に慣れていて、その夜も妃付きの侍女は心得たように下がっていった。

彼は夕鈴の寝台に横たわった。
どことなく甘い香りがして、夕鈴を思い出してしまう。
もっとも、それが目的でこの部屋を訪れたのだが。
正直、夕鈴がいないということがこれほど堪えるとは、予想していなかった。
これまでにも政務が忙しくて、夕鈴に会えないときはあった。
だが、そのときは夕鈴はこの王宮内に--己の手の届く所にいてくれるのだと思えた。
それだけで胸のあたりがほんわりと温かくなったのを覚えている。

その安心感が、今はない。

彼はうつぶせになり、枕に顔をうずめた。
夕鈴を抱きしめたときに香るのと同じ香が、鼻を掠めた。
思い出すのは、あの夜。
貴方を知りたいと--歩み寄ってくれた彼女に、あろうことか、彼は文字通り噛み付いてしまったのだった。
彼は深い後悔のため息をついた。
まぶたの裏に浮かぶのは--
彼女の泣いた顔。
笑った顔。
怒った顔も。
・・・いつのまに夕鈴が自分の中でこんなに大きな存在になっていたのだろう・・・。
枕を抱きしめる腕に力がこもる。
夕鈴--夕鈴・・・早く帰ってきて・・・!



寝る前に陛下の予定を確認しようとして、夕鈴は今、自分が後宮ではなく紅珠の私邸にいるのを思い出した。
なんとなく決まり悪い思いをしながら、彼女は布団の中にもぐりこんだ。
紅珠が用意してくれた部屋は、後宮の彼女の部屋よりも豪華なぐらいだった。紅珠の気遣いで、何一つ不自由なく過ごしている。
居心地がよければよいほど、後ろめたさが増した。
早く帰らなきゃいけないのに・・・私だって早く帰りたいのに・・・。
でも、今帰っても、とても陛下の顔を見られない。
夕鈴は長いため息をついた。
神様。私はこんなことで動揺してしまって、陛下のおそばにいられなくなるようなダメ妃ですが。
どうか、陛下のお仕事がうまくいって、陛下の悩みや苦しみが少しでもなくなりますように。
神様、どうか、お願いします・・・。
心の中で祈りを唱えながら、彼女は眠りについた。



ふと、やさしい気配に気付いて、彼は顔を上げた。
はてしてそこには、愛しい人の姿があった。
「夕鈴・・・帰ってきてくれたのか」
すぐにも駆け寄っていきたくなるのをこらえつつ、彼は体を起こした。
夕鈴は彼のすぐそばまで、こわごわと歩いてきた。
「ご迷惑をおかけしました、陛下」
そう言って、まるで許しを請うように、彼の足元にひざをついた。
「夕鈴、いいから。もっとそばへ」
彼女はひざをついたままにじり寄った。
「もっと」
ついに夕鈴は、彼のひざに触れんばかりの距離まで近づいた。
「夕鈴・・・」
彼はそっと手を伸ばし、つややかな髪に触れた。
夕鈴が逃げないのを確認して、そろそろとなで始める。夕鈴は彼の膝の上に、そっと頭を乗せてきた。
その重みが、安堵と陶酔を同時にもたらす。
彼はゆっくりと手を動かして、長い髪をなでていた。膝の上で丸まっている兎をなでるように。
そうしていないと、何をしたらいいのか--自分が何をしでかすかわからなかった。
「私は・・・陛下のおそばにいたいんです」
膝の上がふっと軽くなった。
「・・・お許しいただけますか・・・?」
夕鈴は顔を上げて、彼の様子を伺うように見つめてきた。
細い灯りの下、夕鈴の瞳は綺麗に澄んでいた。潤んだ目に、灯りがぽつんと映っている。
それが揺らめくのが見えて。
彼は自分を抑えられなくなった。
「夕鈴・・・もうどこへも行かないでくれ・・・!」
王は妃を抱き寄せた。
妃は逆らわなかった。

(これは夢・・・?)
強い力で抱きしめられながら、夕鈴はとまどっていた。
ここは後宮の自分の部屋だ。
陛下のことを心配してたから、こんな夢を見てるのかしら。
そう、これは夢に違いない。
あの狼陛下が、こんなに必死に私にしがみつくなんて、現実であるはずがない。
そう思うと、胸のつかえが取れたような気がした。
(夢だったら、いいわよね・・・立場とか借金とか考えなくても・・・)
夕鈴より大きな体を、支え持つように抱きしめて。
「陛下。私はどこへも行きません」
夕鈴は内心、己の大胆な行動に驚いていた。
だが、心の底に押し隠していた本音は、いったん出てしまったら、もうとどまることを知らなかった。
「ずっと・・・陛下のおそばにいます。陛下が許してくださる限り」
「・・・ずっとだ、夕鈴」
陛下の声音には今までに聞いたことのない響きがあった。
とても真摯な--心の底から出てきたばかりの、ありのままの響きが。
「ずっと・・・そばにいてくれ」
これは狼陛下なの?それとも小犬陛下?
ううん、どちらでもいい。
目の前にいる人に、ありったけの愛しさをこめて、夕鈴ははい、と告げた。
頭上で、陛下が深呼吸したのがわかった。
夕鈴の髪の香りをかいでいるのかと思ったら、額にやわらかなものが触れて。
あ・・・キス、された・・・?
こめかみのあたりにも、キス。
耳のすぐそばで、夕鈴、と低くささやかれる。
思わずぴくんと揺れてしまった肩を、大きな手のひらに包まれて。
自分の体の小ささ、陛下の力強さを感じて、どきっとする。
指が、すっと夕鈴の顔の輪郭をなぞった。
陛下の唇は、目尻、頬にも触れて、やがて夕鈴の唇までたどり着いた。

おごそかな誓約のような口づけの後、陛下は顔を離し、夕鈴をぎゅうっと抱きすくめた。
「夕鈴・・・ずっと、こうしたかった・・・君を私のものにしたいと・・・君の心も体も、君のこれからの人生、君のすべて・・・」
「陛下・・・」
体がふわっと浮き上がりそうな心地でいたら、それは本当になった。
夕鈴は陛下に抱えられ、そっと寝台の上に降ろされた。

◇ ◇

目が覚めかけたとき、彼がまず一番にしたのは、夕鈴を抱き寄せることだった。
しかし彼の手を迎えたのは、ぬくもりのない、ひんやりとした絹の感触だった。
寝台に腕を這わせても、目的のものはどこにもない。
彼はがばっと跳ね起きた。

寝台にいるのは、彼ひとりだった。

昨夜共に過ごしたはずの夕鈴の姿はどこにもなかった。
夕鈴--?
恥ずかしがって、どこかへ隠れてしまったのだろうか。
夜着をはおりながら侍女を呼びつける。
「妃は」
侍女は一瞬ためらった後、答えた。
「・・・お戻りになられましたら、真っ先に陛下にお伝え申し上げます」
「・・・・・・」
夕鈴はまだ帰ってきてないのだ。
状況をつかんだ王は、再び人払いした。

どさっと寝台に倒れこむ。
--夢か・・・。
彼は思わず長いため息をついた。
だが、とても夢とは思えない。
夕鈴の声、ぬくもり、あえぎ。汗を含んだ長い髪の重たさまで思い出せるというのに。
あれがすべて夢だったというのか。

なんだかふて寝したい気分だった。
ごろんと転がると、白い敷布の上に紅いものが見えた。
一瞬、血かと思って--純白の夜具に印された初夜の証を連想して--どきりとしたが、よくよく見ればそれは花だった。
(なぜこんなところに花が?)
と思うのと、
(夕鈴のところへも同じ花を届けたな)
と思うのは同時だった。



夕鈴は、朝はいつもすっきりと目覚めるのだが。
その日に限って、なぜか頭がぼーっとしていた。
昨夜ヘンな夢を見たからかしら。
陛下に申し訳ない、謝りたいという気持ちがそのまま出ていた夢だった。
後宮に帰って、陛下に謝って、それから・・・。
陛下に抱きしめられたような気がするのだけれど、そのへんからよく覚えていない。
夕鈴が起きたのを察して、氾家の侍女があらわれ、身支度を手伝ってくれた。

夕鈴がそれに気付いたのは、髪を結ってもらっている最中だった。
鏡に映った胸元に、ぽつんと赤い跡があった。
そっと指先を当てると、平らで腫れてなかった。かゆみもない。虫刺されにしてはちょっとおかしい。
こんな跡、昨日まではなかった。昨夜刺されたのかしら?
なぞっているうちに、ふっと感触がよみがえった。
--指ではない、生暖かいもの。
それに強く吸われて。 ぴり、と痛みに似た感覚が走って。
そのとき夕鈴は、髪の毛に--自分のものではない、短い髪の毛の中に、指先をうずめていた。
陛下の口づけを、胸元に受けている自分。
『・・・ぁ・・・、陛下・・・』
自分のものとは思えない甘い声がよみがえる。
(ええっ!?いやいや、落ち着け私!これは夢!・・・夢って・・・わ、私ったらこんなイヤラシイこと考えてたのっ!?)
ぼふっと顔から火が出そうになり、とっさにうつむいてしまった。
ざら、と長い髪が侍女の手からこぼれた。
何か粗相があったのかと恐縮しまくる侍女をなんとかごまかしているところへ、紅珠がお茶の誘いに来た。

朝のお茶ということで、お茶と軽食を紅珠と一緒におしゃべりしながらいただくことになった。
「お妃様、昨夜はよく眠れまして?」
虫刺されのことは秘密にしておこうと夕鈴は思った。そんなことがばれたら『お妃様のお肌に傷をつけるなんて申し訳ありません!』と一騒ぎ起こりそうである。
「ええ、ありがとう、紅珠。おかげさまでよく眠れたわ」お妃スマイルで答える夕鈴。
「陛下の夢をご覧になりましたか?」
夕鈴は飲みかけのお茶を吹き出しそうになった。
(なっ、なっ、なんで知ってるのーー!?)
とあわてふためきたくなったが、紅珠の手前、すぐにお妃演技を取り戻した。
「まあ、紅珠ったら」
「ご覧になりませんでしたの?」
「ぐっすりと寝てしまったから、わからないわ」
「そうでしたか・・・」
紅珠はがっかりした顔になった。
自邸にいてリラックスしているのか、紅珠の感情表現は後宮に遊びに来ているときより素直である。
それにしても。
やけにしつこく聞かれたような気がしたけど、ただの挨拶じゃなかったのかしら。
そもそも紅珠は紅珠なりに気を遣ってくれていて、陛下のことをこんなストレートに聞くようなことはなかったのに。
「・・・どうして?紅珠」
夕鈴がたずねると、紅珠の瞳が悪戯っぽくきらめいた。どんな我がままも悪戯も許したくなるような、愛くるしい表情だった。
「先日陛下が贈られた花について、お妃様はご存じですか?」
「陛下が贈ってくださった花はたくさんあったけれど・・・どれかしら?」
「ひときわ香り高い、そこの紅い花ですわ」
紅珠は部屋に飾ってあった花を指し示した。
夕鈴は席を立ち、その花のところまで歩いていった。
深紅の花の色は、陛下の瞳の色に似ていた。
部屋にその花が飾ってあると、まるで陛下がそこにいて、見られているみたいな気がした。
・・・それで後宮のことを思い出して、あんな夢を見ちゃったのかな・・・。
花を眺めていると、後ろから紅珠の声がした。
「この花を枕の下に入れて眠ると、愛しい人の夢を見るという言い伝えがありますの。それで昨夜試してみたのですけれど・・・」
「え?」
夕鈴は振り向いた。
試すって・・・昨夜って・・・もしかして?
思わず紅珠の顔を見つめると、極上の笑顔が返ってきた。
「ええ、お妃様の枕の下に」
「・・・そ、そうだったの・・・」
言葉を失う夕鈴。
邸の主は、そんな客人の様子を見て、ふふ、と満足げに笑みをこぼした。



おしまい☆



家出編の陛下のへたれっぷりがあまりにすごかったので、何か書きたかったんです。
シリアスに締めるつもりだったんですが、最後にいきなり紅珠先生が出てきてしまいました。
きっと紅珠先生の執筆もはかどったことでしょう。なんてったって恋する乙女夕鈴が間近にいるのですから♪
陛下の枕の下にも侍女さんがお花を入れておいたんでしょうか。すごい効き目だな!(笑)

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